本格的なアクションアドベンチャーで、そして割と難しいです。 実質的に街を支配しているピピストレッロ・インダストリーズ。そのトップであるマダム・ピピストレッロの部屋に甥のピピットが訪れたとき、ピピストレッロによる支配に苦しんでいた者たちが押し入り、マダムの魂を4つの「メガバッテリー」に分けて吸収してしまった。 メガバッテリーは魂のエネルギーを充電することで永久に使用できるエネルギー源としてピピストレッロによって開発されていたが、倫理的に問題があると判断して中止した。しかし科学者たちは研究を継続しようとしていることが判明し、そして今回の件に至った。 しかし、マダムが魂を吸われている途中でピピットのヨーヨーが介入したため、マダムの魂の1/5だけが残り、そしてピピットのヨーヨーにその魂が宿った。 ヨーヨーに宿ったマダムによれば、ピピストレッロの研究所でプロセスを逆転させれば元の姿に戻れるらしい。 ピピットはヨーヨーに宿ったマダムと共に、4つのメガバッテリーを集めるため街に出る。
アクションは独特です。ヨーヨーを投げて壁などに反射させるというメカニクスになっていて、それを利用して敵を倒す、アイテムを引き寄せる、スイッチを入れるなどができます。 そしてヨーヨーをグラップリングフック的に使ってのジャンプや、ヨーヨーに引っ張られる形での突進など、キャラクター自体のアクションもあります。 キャラクター自体のアクションについては最初からすべて使えるわけではなく、ゲームを進めていくとアンロックされていきます。そして段々と探索範囲が広がっていくという感じになります。 それと、キャラクターの移動は360度ですが、攻撃の方向は4方向のみになっています。
キャラクターの強化要素は3種類で、ステータスの強化、様々な必殺技的なスキルの獲得、スキルツリーとバッジによるパッシブスキルの獲得です。 ステータスはライフポイントとBP(バッジポイント)があり、ペタルのうつわを8個集めるとライフポイントが増え、BPかけらを2つ集めるとBPが増えます。各うつわはマップ内に配置されています。 必殺技的なスキルはマップのどこかにいる特定のキャラクターと会話すると習得できます。 スキルツリーによる強化は少し変わったシステムになっています。スキルを獲得するためにはコインが必要なのですが、その費用は借金という形になっていて、所持しているコインは減りません。その代わりに、そのあとで入手したコインから支払わていくというシステムになっています。入手したコイン全部が支払いに回されるのではなく、そのうちの50%が返済に充てられます。そして借金の返済中はそのスキルに様々なマイナス効果が付きます。 バッジは装備することでパッシブスキルが有効になるというアイテムで、これもマップのあちこちに配置されています。中には設計図を見つけて作成しなければならないものもあります。 必殺技とバッジは特定の場所に行けば付け替えが可能ですが、バッジはBPというポイント制になっていて、各バッジに設定されている消費BPの合計が所持しているBP以下になる必要があります。
ゲームプレイですが、プレイ時間の予想は難しいです。ストーリーを追う感じで進めれば10~12時間ほどだと思いますが、探索を楽しむ場合は20時間以上になると思います。ただ、パズルと戦闘が割と難しいので、そこに手こずるともう少し長くなると思います。私の場合はゆっくりと探索しながら進めて30時間でした。 戦闘については何度もリトライする死にゲー的なプレイ感になることもありました。各キャラクターが大きいこともあって移動範囲が狭く、それでいて多くの敵や弾が向かってくるというときもあるため、1~2秒ほどの間に判断と操作を行うというペースの速い戦闘になる場面も多いです。特に攻撃は4方向で斜めがないというのに慣れるまでは大変でした。敵は普通に斜め方向から攻撃してくるので、その対応にも慣れるまでは戸惑ってしまいます。 ただ、やられてしまっても直前からリトライ可能なのでストレスはなかったです。また、ハートがゼロになるとミスになりコインを失いますが、何度か連続してミスすると-1で済むようになるなどの配慮がなされています。
投擲物の反射を利用するゲームは「Tiny Thor」などがありますが、悩みどころや難しさの感覚も似ています。このゲームはそこにキャラクター自体のアクションが加わることで、ヨーヨーのアクションとキャラクター自体のアクションを連続して行う必要があります。そのため操作に混乱することも多く、押すべきボタンがAなのかBなのかXなのか訳が分からなって何度も落ち続けたりしてました。でも全体の難易度はいい感じに調整されていて、単にヨーヨー投げて反射させれば敵を一掃できるようなマップとかも用意されています。そうした調整がやる気を維持させてくれました。 戦闘もパズルも割と難しめですが、設定で難易度を細かく調整できるようになっているので、無理そうなときは調整してしまえばいいと思います。戦闘であればダメージを調整できるし、パズルであればアクセシビリティのほうでゲームスピードを落とすこともできます。 難易度などを変えたくないのであれば、プレイ時間は増えますが、探索重視で楽しめば大丈夫だと思います。終盤に近くなると強力なバッジも入手できるので、攻撃力を重視した爽快なゲームプレイも可能です。
マップは広大です。ゲーム開始直後はこじんまりとした感じなのかなと思っていたのですが、最初のダンジョンをクリアするころには「これは20時間くらいはかかるかも」という予感。結局はタクシーによるファストトラベルを活用しつつすべてのマップに足を運びました。 探索については気配りがされていて、例えばクリア済みのパズルにはチェックマークが付くなどがあります。マップには小さめのパズルが用意された建物があったりするのですが、それをクリアしてアイテムを入手するとその建物の入り口にチェックマークが付いて、クリア済みであると分かるようになっています。また、未クリアのパズルのある建物は全体マップで!マークが表示されるし、見つけたけど未入手のアイテムがある場合も全体マップで確認できます。 そうした配慮は探索好きには嬉しいし、作っている人の中に探索好きがいないと思いつかないんじゃないかなとも思いました。
音楽はとても素敵で、探索やパズルに集中しているときは聞こえていないようで聞こえているという、とても素晴らしい劇伴となっています。また、探索と戦闘の移行時の違和感のない移り変わりや、地下に入るとリバーブのかかったサウンドに滑らかに移行するなどの調整もされています。 効果音もこだわっているようで、ゲームファイルを見てみたのですが、サウンド用のファイルが約500個ありました。足音だけで40個あるという具合です。それらすべてがゲーム内で使用されているかどうかは分からないですが、それだけの労力と情熱をかけて作られたサウンドなんだと思います。そして画面の右側の音は右から、左側の音は左から聞こえるという感じで、音の定位もしっかりしています。 ハイレゾに寄らずにレトロ風をつらぬく柔らかいサウンドはとても心地よくて、それでいてその曲たちは時折とてもドラマチックです。 スタート地点のエリアで鳴り響くヒーロー感溢れる「The Big City」のワクワク感を経て他のエリアに入ると、少し気楽なエレベーターミュージック的なウェルカム感の曲が用意されています。しかし各ダンジョンでは重めの緊張感のある曲でプレイヤーにプレッシャーをかけミスを誘う。そして同じエリアやダンジョンであっても、場所によってサウンドを変えてきます。 それらのゲームプレイに合わせた曲のメリハリは、ゲームの進行において現在どの辺りにいるのかをプレイヤーに教えてくれます。気楽な探索なのか、ダンジョンへ向けての準備段階なのか、そして油断できないボスへの道なのか。そうした音楽がプレイ体験の一部としてしっかりと機能しています。 そんな中で驚かされたのは、ゲーム中盤で向かうことになるファダフェスというイベントのエリアの曲「Fadafest Convention」。おそらくエレクトロニックミュージックのテクニックを駆使したであろう異質な曲で、その4つ打ちガレージハウス風エレクトロは本当にカッコいいです。他にも「Police Department (in High Alert)」のようなアシッドハウスの系統とも思える曲など、音楽自体が主張してくるときもあります。 一番好きな曲はマダム・ピピストレッロのテーマで、曲名はずばり「Madam Pipistrello」。これはチェンバロを模したシンセによる曲ですが、そのシンプルなテクスチャはどことなく不穏でそして物悲しい。マダムは街を支配する企業のトップという一般的には悪役と認識されるキャラクターなのに、なぜそのような曲になったのか。それはまるでマダム・ピピストレッロの生き様と、そしてこのゲームの結末を暗示しているかのようです。 そして最後に、スタッフロールには "Yoko Shimomura" の表記があります。iam8bitの説明によると "Pipistrello Manor" という曲を提供しているとのことです。この曲はSteamストアのデジタル版サウンドトラックには収録されていなくて、物理メディアであるLP(レコードのことです)にしか収録されていないようです。 この曲がゲーム内で使用されているのかどうかは分からないですが、Steamの掲示板での「ピピストレッロ邸の曲がそうなのか?」という質問に対して開発者が "Yes it is!" と答えています。ただ、ピピストレッロ邸で流れる曲はスタート時の "Pipistrello Industries" と最終盤で訪れた時の "Return to Pipistrello Manor" の両方ともデジタル版に収録されていて、LPの "Pipistrello Manor" はまったく別の曲なのか、それともアレンジなどが異なる曲なのかは不明です。 Steam掲示板 https://steamcommunity.com/app/2870350/discussions/0/599653842304415087/ 「ピピストレロと呪われたヨーヨー / Pipistrello and the Cursed Yoyo™ 2xLP」- iam8bit 公式サイト https://iam8bit.jp/products/pipistrello-and-the-cursed-yoyo-2xlp
Pipistrello and the Cursed Yoyo。 その可愛らしいドット絵とスーパーファミコンやPCエンジンといった時代のスケール感の映像は、現在においては気楽な難易度の気楽なボリュームのゲームだという勘違いを誘います。実際に私は勘違いしてました。しかしこのゲームは、アクションアドベンチャーの文脈を理解している人でなければ作れない本格派です。そしてメカニクスといった事実だけでなく "アクションアドベンチャーのナラティブ" という体験に注目して作られていると思います。 アクション、探索、ストーリー、映像そして音楽。どれもしっかりと作られていて、それでいて12時間ほどでクリアできるようにも作られています。私は探索好きなためプレイ時間は30時間に達しましたが、そういったプレイヤーの期待にも応えてくれる素晴らしいゲームです。