Geo Mythica

レトロなRPGで、JRPGで、そして割と本格派。 日本語未対応。 カリフォルニア州サンルイスオビスポ。そこに住む主人公の Geo は学校の課題をこなすために Mission San Luis Obispo (カトリックの布教のための施設) に行き、その地下で不思議な地図 "Atlas Mythica" を見つけ、そして読んだ。 そこに Sur Nova という企業の人物が現れ Geo は謎の機械に襲われるが、Liliana という女性に助けられ、地下からの脱出を試みる。 Liliana によれば、Sur Nova はペルーのナスカを訪れ古代の何かを探していたらしい。しかしそれは人間がいたずらに扱ってはならないとされている古代の地図で、それが Geo の見つけた Atlas Mythica だった。その地図は誰にも読めないはずだったが、しかし Gio はそれを読むことができた。 Liliana は、理由はどうあれ Gio が Atlas に選ばれた人間であると考え、一緒にニューオーリンズに行くよう Geo を説得する。そこには Atlas の解読を手助けできる人物がいるという。

コンバットはRPGのそれで、ポーズ可能なリアルタイムになっている。奥深さはないが十分にタクティカル。 システムもしっかりしていて、Threat system というヘイトのメカニクスを持っていることには驚かされた。Threat system は、敵がプレイヤーキャラクターに対するヘイトを持っているというもので、敵が嫌がる行動を取ったキャラへのヘイトが増え、そのキャラが攻撃の対象となる。ヘイトの増え方は行動によって異なり、回復行為は攻撃の3倍のヘイトを集める。この Threat system を理解していないと、回復を行うキャラがタコ殴られていたということになってしまう。 そして、敵の中には防御力の低いキャラクターを優先して狙うものもいて、その対応が遅れると不利な状況に追い込まれる。

コンバットにおける Threat system や弱いキャラクターを狙うといった敵側のタクティクスに対応するためにはプレイヤー側にも相応のタクティクスが必要で、それを可能にするのがクラス(職業)のシステムであり、このゲームもそれを採用している。各キャラクターに対して実際にクラスが設定されているわけではないが、キャラによって使用できるスキルやステータスなどが異なり、実質的にはクラス制となっている。例えば主人公の Geo はタンクと呼ばれる前衛の盾役で、敵を挑発するスキルを使用して自身に攻撃を向けさせることができる。これによって敵側のタクティクスを無効にし、プレイヤーキャラ側に有利な状況を作り出せる。他にもパーティをサポートするキャラや、敵に状態異常弱を与えることができるキャラもいる。

ここまで読んで「アタッカーは?」と思うかもしれない。それはそう。倒さなければ勝てないのだから。 もちろんアタッカーはいる。しかしそのキャラクターが仲間になるのは中盤を超えたくらいで、それまではアタッカーらしいキャラは不在。ではどうするのかというと、タンクがアタッカーを兼任する。タンク系のキャラは強力な攻撃用のスキルも持っていて、それらのスキルが、たとえ同じタンクであっても異なるスタイルの戦い方を推奨する。 例えば Geo はスキルを使用するのに Fury というポイントを消費するが、その Fury はダメージを与えたときとダメージを受けたときに増える。それによって積極的に攻撃する気が起こる。そして敵の攻撃を自分に向けさせ、周りに集まってきた敵に範囲攻撃でまとめてダメージを与えることができる。 もう1人のタンク系キャラのほうは、敵の攻撃を自分に向けさせたときに防御態勢を取りダメージを減らすことができ、Geo よりも長時間耐えることができる。そしてスキルの使用には Gall というポイントが必要になり、その Gall はダメージを受けると増える。そうして敵の攻撃に耐えて溜まった Gall を消費して強力な全体攻撃を使用できる。 また、敵には弱点となる属性が設定されているので、その属性の魔法でダメージを与えれば誰でもソーサラーとして活躍できる。 そんな感じ。

このゲームはキャラクターの使用できるスキルやステータスなどが異なる実質的なクラス制を採用しているが、それでも育成は自由。 ステータスやスキル性能を向上させる Talent と呼ばれるパッシブスキルは、レベルアップ時に獲得するTPを投入することで有効になるが、投入したTPは何度でも回収でき、他の Talent に割り振ることができる。そして各キャラクター固有のスキルに対応した Talent 以外の、例えば攻撃力を上げるといった Talent については、どのキャラも同じものを獲得できる。さらに魔法についても、Scroll というアイテムを持たせれば誰でも使えるようになる。 これらのメカニクスは、使用できるスキルから想定される役割に縛られることのない育成を可能にする。タンク用のスキルを使用できるキャラの知力を挙げて魔法で戦ってもいいし、サポート用のスキルを使用できるキャラの防御力を上げてタンクサポにしてもいい。試してみてダメだったり飽きたりしたらTPの割り振りを変えればいいだけだ。

エンカウントはワールドマップとダンジョンのどちらもシンボルエンカウントで、敵に近づかなければ戦闘にはならない。ただ、強制的に戦闘となることも多いのと、避けることは難しい作りにもなっているので、ほとんどの場合で戦うことになる。 セーブは手動で、戦闘中でなければいつでもどこでも可能。戦闘で全滅した場合はセーブに関係なく戦闘開始の直前から再開できる。

コンバット以外の話も少し。 ワールドマップは現実の地球をデフォルメしたものになっていて、地名や街の名前も現実のそれと同じ。そしてそれぞれの地域の特徴や文化なども現実のそれの再現を目指している。 各地域にはそれぞれ通貨が設定されていて、その通貨を持っていないと買い物できない。各通貨は銀行で交換できる。そして使用している言語の設定もあり、その地域の言語を習得していないと話ができない。 回復アイテムなども現実の各地域に由来するものになっている。例えばカリフォルニアであれば "Sourdough" というパンが売られていて、ルイジアナ州のニューオーリンズであれば "Shrimp po-boy" というサンドイッチが売られている。 他にもスタート地点であるサン・ルイス・オビスポについてはフットボールとミッション、ニューオーリーンズではジャズクラブという感じで、現実の地域の文化や慣習に注目している。

ゲームプレイについては、まずプレイ時間はディベロッパーによればゲームの要素をすべてこなして15時間ほどらしい。しかし私は英語ペラペラではないということもあって40時間かかった。長い。この長さは間違いなくこのゲームに対する愛着や評価に影響を与えている。 リアルタイムのコンバットはとても忙しい。慣れないうちはほぼポーズ状態ということもある。スキル使用のショートカット用スロットが6つ用意されていて、それに対応しているボタンを押せばコマンドから選ばなくても使用できるが、しかし3人パーティだからスロットは1人当たり2つとなり、数が足りない気がしていた。そしてプレイしているうちに気付いた。というか思い出した。このRPGはキャラクタービルド系だ。自分の好きなスタイルに必要なスキルが使えればそれでいい。そうしたプレイスタイルを思い出したら、ショートカットは6つで十分だと思えてきた。 全滅後のリトライも戦闘の直前からなのでストレスはない。キャラクターの入れ替えはいつでもできるし、さらにパッシブスキルの付け替えも自由だから、本当に好きに戦えばいい。

先にコンバットとキャラクターの育成などについて長々と書いたが、実はそんなに気にしなくても大丈夫な難易度になっている。 ザコ戦を真面目にこなしていれば適正レベルになるし、お金にも余裕があるのでアイテムを買い込める。そしてゲーム内のチュートリアルで言われる通り、早く倒してしまうことが最善だ。だから細かいことは気にせずに、タンクが倒れる前にアタッカーによる大ダメージや全体攻撃で終わらせていけばいい。また、敵の攻撃は基本的に通常攻撃とスキル攻撃が1種類ずつなので、対応もそんなに難しくない。 中盤を過ぎたあたりで強力なアタッカーが仲間になるが、私はそのキャラの素早さをモリモリに盛って全体攻撃連発でゴリ押していた。 そうした軽快でプレッシャーのないコンバットは癖になる楽しさを提供してくれる。

ストーリーはJRPGのそれで、各キャラクターの内省に注目している。それぞれの生い立ちを詳しく語り、悩みや苦しみを描く。仲間になるキャラだけでなく他のNPCや敵についても同様で、そしてメインストーリーの各クエストについても、人々の不安や苦悩といったものを描いている。 仕事に勤しみ子供の誕生日を忘れる親の後悔、父の仕事の都合で望まぬ街に住みながらその本心を隠して生きる娘。そして Geo たちが追っている相手もまた苦悩を抱えている。 そんな中で異色な主人公の Geo は、ときに仲間たちから揶揄されたり諭されたりするほどに純粋で誠実だが、しかし最終的にはその純粋さが世界を救う。 それらは分かりやすく、あるいは都合よくデフォルメされているが、最終的に解決されていく様子はやはり安心できるし元気をもらえる。

音楽もレトロ風味。 曲は充実していて、各街にもそれぞれの曲が用意されている。そして、キャラクターたちの悩みや苦しみに注目するストーリーに最初の街やワールドマップでの曲のような優しさとせつなさの混ざり合ったものを合わせてくる感性はとてもJRPG的で、独特のナラティブに貢献している。 ニューオーリンズの Boogie-woogie、サンパウロの Choro っぽいエレベーター・ミュージックなど本当に多彩だが、かつてのチップ音源に似せたトゲトゲしく騒々しいサウンドは、ザコ戦の「Battle」のような曲に合っている(と思う)。この激しいリズムとシンコペーションのベースの上に乗って流れるゆったりとしたメロディによるテクスチャは、軽快だけど忙しいコンンバットと相まって何度でも聞きたい戦いたいと思わせてくれる。

Geo Mythica。 リアルタイム・タクティクスを採用したこのゲームは割と本格派だが、同時に割と細かいことはどうでもいいという軽快なゲームプレイを提供する。その絶妙なバランスと、分かりやすいが心にしみるキャラクター描写と、多彩な音楽と、そしてレトロな映像によって、JRPGな体験を実現している。 ゲームの終盤に入ったとき、もうすぐ終わりなんだという寂しさを感じる。しかしそんな気持ちを分かっているかのようにラストダンジョンで難易度が急激に上がり、「ほら、レベル足りないよね。他のダンジョンとかあるよ? コンプリートしてない収集もあるよね? 報酬もらえるよ? やっておいたら?」と未練を残さないようやりつくすことを推奨してくる。 それらを終わらせてもなおラスボスを倒したあとに沸き起こる不思議な感覚。達成感とは違う何か。興奮でもない。喜びでもない。ではやっぱり寂しさ? いや違う。私はその感覚の言語化に成功したことはない。だからこう書くしかない。「JRPGだ」と。 そして最後に、このゲームのカットシーンはテクモシアターっぽい。